長話

主にクイズについて書きます

~したことで有名な、  ——センシティブな有名度表現

「「Aは有名」と言い切れる」と判断されるための条件は、本来非常に複雑だ。

一要素を挙げると、「有名な」と言いっ放しにした場合、「何にとって有名なのか」が準備されない。日本国民全体にとって有名なのか、日本の若者なのか、知る人ぞ知る界隈なのか、はたまた世界中なのか。定義域のないまま「有名」という表現が使われている、ということは、大きな自信をもって有名であると断言できる何らかの背景が作問の裏に用意されている、と受け取られる余地を残すことにもつながる。ゆえに、単に日本語として使いやすいという理由だけで「有名な、」と表現するのは危険な可能性が高い。

Q2-1. ロマンチック街道の終点に位置する、東京ディズニーランドにあるシンデレラ城のモチーフとなったことでも有名な城は何でしょう?

A. ノイシュヴァンシュタイン城

例えば、この問題には「日本人視点」が強く反映されており、少なくとも世界的/歴史的価値を鑑みれば、「シンデレラ城のモチーフになった」が最重要であるかのような表現は望ましくないと分かる。

 

しかし、「事物Pを構成する諸要素の中での要素Aの有名度」「業界Xを知る集団Yにとっての事物Aの有名度」などのような、いわば「条件付き有名度」のディスコースマーカーとして捉えた場合、「有名な」はとてもリーズナブルな方便となる。

Q2-2. モデルとなった政治家・有田八郎が起こした裁判でも有名な、料亭を営む女将・福沢かづを主人公とする三島由紀夫の小説は何でしょう?

A. 『宴のあと』

プライバシー権を争った判例としての司法史における重要度を考えると、この件を「有名な」で括る表現は言い過ぎたものではないと考えられる。ここでは、世間一般にとって『宴のあと』が高い知名度を持つかどうかは問題にならない。

※この表現は「主人公が福沢かづである」という情報が裁判と同程度に有名であるという主張を含みかねない。詳しくは記事末尾の注2を参照。

 

裏を返せば、「有名な」と断言していながら、条件付き有名度をもっても有名だと言い切れないような要素が前面に出ている場合、この表現は好ましくないものと受け取られやすい。

Q2-3. 源義家がここで元服したことや、足利義教がここでのくじ引きの結果将軍になったことで有名な京都府八幡市にある神社は何でしょう?

A. 石清水八幡宮

1フリ目は石清水八幡宮を構成する要素の中でも重要度は低くないが、2フリ目はこれと比較して好ましくない情報の出方であろう。

 

これらの議論から、「有名な」という表現は繊細ゆえに取り扱いに注意すべきであり、何らかの信念を用意していない場合、なるべく避けた方が無難だということがわかる。

例えば、以下の問題はこのように書き換えられる。

Q2-4. 日本の東海道アメリカのボスウォッシュなどが有名なに代表されるウクライナの地理学者ジャン・ゴットマンによって提唱された、大都市が帯状に連なった地域のことを何というでしょう?

A. メガロポリス

東海道やボスウォッシュが真に代表例として相応しいかの議論は置いておくが、上記の校正を経ると、「(東海道などが)メガロポリスであることで有名である」と主張してしまうのを避けつつ、「メガロポリスの例として主たるものである」ことを表すことができる。このように、(トピックについて強い自信のない場合などは特に、)「有名な」を使わない方が安全な言い回しになる場合が多い。

 

逆に、「有名な」というフレーズを敢えて織り込むことで、少なくともある業界においては重要であることや、事物Aは本来この要素において有名であるということを、反骨的に主張することもできる。……

 

 

注1

類似表現として「知られる、」があるが、こちらもセンシティブな有名度表現につながるため取り扱いには注意したい。(ここでは議論の詳細を省略する)

 

注2

Q2-1.やQ2-2.にも実際にみられるが、「でも有名な」という表現は、要素として最重要であることを緩和する一方で、問題文中にある2つの要素が「共に」「同じクラスで」大きなウェイトを占めることを示唆する可能性を孕む場合がある。

例えば、Q.2-1では「シンデレラ城のモチーフになった」と並ぶ有名情報は「この問題文では言及していないが他にある」と仄めかしうるが、Q2-2.では「裁判」と「主人公」が有名度において比肩することを示してしまう。

この点で指摘できるように、「でも有名な」表現もまた、濫用は危険である。

(問題文再掲)

Q2-1. ロマンチック街道の終点に位置する、東京ディズニーランドにあるシンデレラ城のモチーフとなったことでも有名な城は何でしょう?

Q2-2. モデルとなった政治家・有田八郎が起こした裁判でも有名な、料亭を営む女将・福沢かづを主人公とする三島由紀夫の小説は何でしょう?